VOL.118【速さの本質に迫る】 -比を利用する-
前回、複雑な設定を明らかにするために「線分図」や「グラフ」を描きましょう、という話をしました。肝心なのはその選択を誤らないことで、ここが「第一の難所」でした。
また、「第二の難所」は数字が煩雑な時に生じました。そうなると、頭が働かなくなるので、練習の際はなるべくシンプルな数字で行うのがお勧めでした。
お気づきのように、数字が煩雑な時の解決策は特に示されていませんでした。
今回はそこを解決していきたいと思います。
解決策はズバリ「比を利用する」です。以下ある程度具体的に比の利用法をみていきます。
I.旅人算を捨てる
いきなり挑戦的な見出しです。
私のような昔の人間にとっては「速さ≒旅人算」というイメージがあるので、まさか自分がこのような文章を書くことになるとは夢にも思っていませんでした。
しかし、長年入試問題を解いてきて、計算の部分で痛い目をみてきた経験から、この言葉が生まれたのです。
ただ、この見出しだけでは誤解を生みそうなので具体例をみながら説明していきたいと思います。
<例題1>
A地点とB地点を結ぶ道があり、その距離は1600mです。
ある日P君がA地点から分速210mで、QさんがB地点から分速270mで同時に出発したところAB間のC地点で出会いました。
翌日はP君がA地点から分速260mで、QさんがB地点から分速156mで同時に出発したところAB間のD地点で出会いました。
C地点とD地点は何m離れていますか。
<旅人算による解法>
1600÷(210+270)= 10 3 …(あ)
210× 10 3 =700
1600÷(260+156)= 50 13 …(い)
260× 50 13 =1000
1000-700=300(m) …(答)
<比を利用した解法>
AC:CB=210:270=7:9
AD:DB=260:156=5:3=10:6
AC:CD:DB=7:3:6
CD=1600× 3 7+3+6 =300(m)
<解説>
「比」を習う前なら「旅人算」で解く問題でしょう。良い練習問題だと思います。
しかし、「比」を習った後は「比」で解くのが妥当です。
(あ)と(い)の計算結果が分数というのもマイナス材料だと思います。
実際に両方計算してみると違いがわかると思います。
私にとっては「旅人算」で解こうという発想そのものが出てこないレベルです。
<例題2>
池の周りをP君とQさんの2人がスタート地点から同時に出発します。
2人はそれぞれ一定の速度で池のまわりを何周もまわります。
2人が反対方向に進むと2分24秒ごとに出会い、同じ方向に進むとP君が10分24秒ごとにQさんを追い越しますP君は池を1周するのに何分何秒かかりますか。
<旅人算による解法>
2分24秒= 12 5 分
10分24秒= 52 5 分
ここで池1周の距離を12と52の最小公倍数の156とおく。
156÷ 12 5 =65…速さの和 …(う)
156÷ 52 5 =15…速さの差 …(え)
(65+15)÷2=40 …P君の速さ…(お)
156÷40=3.9(分)=3(分)54(秒) …(答)
<比を利用した解法>
「速さ」と「かかる時間」は「逆比」の関係にあるので
速さの和:速さの差=10分24秒:2分24秒=13:3
Pの速さ:Qの速さ=(13+3)÷2:(13-3)÷2=8:5
よってPが1周にかかる時間は
2分24秒× 8+5 8 =3分54秒 …(答)
<解説>
上の解き方なら「旅人算」も悪くありません。
ただし、分岐点が2か所ほどあり、その選択によって結果が変わってくるかもしれません。
分岐点1 「時間を秒にする」
「分」だと「分数」になるので、「秒」で計算することは考えられますが、この「分母」は無いと同じことになるので、結果的には「分数」のほうが良かったということになります。
分岐点2 「距離を1とおく」
「旅人算」で解くためには「道のり」の数値が必要です。
本問ではそれが与えられていないので、何か数字をおかなければなりません。
そこからしてやや不自然なのですが、その数値は何でもかまいません。
割合を習っている影響か、「1」とおくケースが目につきますがそれは効率が良くありません。
(う)(え)(お)がそれぞれ「 5 12 」「 5 52 」「 10 39 」となります。
ここが分数になるのが少し痛い(整数のほうが頭が働きやすいと感じます)ので、「距離」は「最小公倍数」がお勧めになります。
それにくらべ「比」を使った解法はシンプルです。
何せ「比」は一番簡単な整数であらわすのが慣習ですから。
以上みてきたように「旅人算」で解こうとすると「計算」の煩雑さが避けられないケースがあります。
また、要求されている「答」が「道のり」の場合、単純に1手損するとも考えられます。
以上から「旅人算を捨てる」のが得策となるのは、
①そのまま計算すると「分数」が出てくる場合
②「道のり」を求める場合
などが考えられます。
II.スキあらば比を使う
旅人算で解くのが当たり前のような問題も「比」を使って解くことができます。
<例題3>
A地点とB地点を結ぶ道があり、その距離は1600mです。
ある日P君がA地点から分速210mで、QさんがB地点から分速270mで同時に出発したところAB間のC地点で出会いました。
2人がスタートしてから出会うまでにかかった時間は何分何秒ですか。
<解答例>
AC:CB=210:270=7:9
1× 1600 210 × 7 7 +9=3 1 3 (分)=3(分)20(秒) …(答)
<解説>
<例題1>の<旅人算による解法>の(あ)が答なので、普通は「旅人算」で解くところでしょう。
上の解答例は「旅人算」で解ける問題は「比」を使っても解けることを示しています。
この「選択できる」というのは大きなメリットで、与えられた数字によってはサッと「旅人算」は捨てて、もう少し安全な解法を用いることができます。
※「捨てる」という言葉には何となくマイナスのイメージがあります。
例えば「捨て問」という言葉がありますが、私はあまり好きではありません。
なぜ「捨てる」という言葉を使ったかというとなるべく「比」を使って欲しいからです。
「旅人算」を学習しなくてもよいという意味ではありませんので誤解のないようにお願いします。
<例題4>
A地点とB地点を結ぶ道があり、その距離は1760mです。
ある日P君がA地点から分速231mで、QさんがB地点から分速297mで同時に出発したところAB間のC地点で出会いました。
2人がスタートしてから出会うまでにかかった時間は何分何秒ですか。
<旅人算による解法>
1760÷(231+297) =1760÷528
=3 1 3 (分)=3(分)20(秒) …(答)
<比を利用した解法>
AC:CB=231:297=7:9
1× 1760 231 × 7 7+9 =3 1 3 (分)=3(分)20(秒) …(答)
「旅人算」は捨てても良さそうな例です。
この問題は構造は<例題3>と同じなのですが、数字を少し変えてあります。
ほぼ全員が旅人算で解くと思いますが途中の「1760÷528」がポイントになります。
これをいきなり筆算にすると
「3あまり176」
となり、これを
「3.333…」→「3 1 3 」
と処理できないとなかなか正解に至りません。
分数にして約分の要領で計算するのが肝心ですが、「比」を利用する場合は終始そのような方針になるので、「比」の感覚を取り入れた方が正解率が上がると思われます。
「比」を利用することのメリットは伝わったでしょうか。
「速さ」に限らず積極的に「比」を利用することで、ワンランク上の得点力を身に付けられるのではないでしょうか。
具体的な算数の問題に関するご質問など、お子様の中学受験に関してお困りの点がございましたら、こちらのフォームからご質問を承ります。
お寄せいただいたご質問へは当ブログ上にてご回答させていただきます。
中学受験・算数の問題などに関する疑問、お困りごとや
金田先生に聞いてみたいことなど、なんでもお気軽におたずねください。