VOL.87【受験生との歩み】 慶應編(3)
前々回紹介した中村君もそうでしたが、慶應3校のうち複数校を受験するケースが多くみられます。
その併願パターンは男子が4通り、女子は1通りあります。
「普通部」が男子校なのでそうなるのですが、対策を考える時も「普通部」がカギになります。
ちなみに配点も「普通部」だけ4教科同じで、他2校は算国が理社の2倍です。
「普通部」は解答の方式が記述式なので、全ての問題に対して途中式や考え方を書かなければなりません。
ですから普段の学習ではまず “書く(描く)” ところから入ります。
もちろん、記述式でなくとも書かなければ解けないことがほとんどなので “書く” ことから入るのですが、そこに “見せる(魅せる)” という要素はありません。
記述式の場合それを採点する人に見てもらわなければならないので、“見せる” ことを前提に解法を組み立てていくことになります。
例えば、VOL.71で紹介した「ハップス・ギュルダンの定理」は記述式でなければ使えたら使った方がよいです。
「中等部」では「回転体」の出題が多いのでマスターしておくのがほぼ絶対だと思います。
ところが、これが「普通部」だと少し躊躇してしまいます。
私が採点官だったら問題なく◯をつけますが、絶対に大丈夫という保障はありません。
その他にも直角三角形の3辺の比「3:4:5」や「5:12:13」を使ったり、レンズ型の面積を出すのに「0.57倍」を使ったり、円すい台の体積を求めるのにいきなり「7倍」を使ったりといったこと全てに気を使わなくてはならなくなります。
このような「裏技(反則?)」の使用の判断は小学生には難しいかもしれません。
私が「普通部」志望の生徒に指導する際は「裏技」はあくまで「裏技」として使用を制限して教えています。
答案用紙には直接書けないのが「裏技」ということです。
さて、今回紹介する受験生川口君(仮名)は、「SFC」が第一志望で「中等部」併願というパターンでした。
「普通部」を受験しないので、「スピード」に特化した授業が可能でした。
彼の場合、6年の春頃から指導を開始したので、じっくりと実力をつける余裕がありました。
塾で習うレベルだと応用~発展に分類される難易度の問題をコンパクトにまとめたものを授業で使用しました。
最初の授業の後、あまりにも問題が難しく熱を出して寝込むほどのショックを受けたらしいのですが(私は単に風邪を引いていただけだと思っています)、すぐに慣れて、塾の成績も向上していきました。
夏休みが終わるまでは「基本の完成」を目指し、特に苦手分野を作らないように注意しながら授業を進めていきました。
今さらかもしれないですが苦手分野を作らないコツについて一言述べておきます。
最大のコツは「気にしない」ことです。
まず前提として「苦手」と「勉強不足」は違うので注意してください。
「勉強不足」を気にせず放っておくと致命傷になりますから、そこはお間違いなく!
「勉強不足」の例をいくつか挙げておきます。これらの症状があれば最優先で治療してください。
- 分数の計算のやり方を間違える(足し算と掛け算のやり方を混同してしまう)。
- 割合で何が元になっているかわからなくなってしまう。
- 公式をきちんと覚えていない(円すいの公式は大丈夫ですか?)。
「苦手」とは、きちんと勉強しているが、なぜか自信が持てないような状態だと思ってください。
そのような時はあまり意識せずに普通に勉強していると解消されることがほとんどです。
結局「苦手」とは本人(あるいはまわりの人間)がマイナスのイメージを持つことによって生じるものなので、そのイメージが無くなれば自然と消えて無くなります。
「苦手」などと言ってる暇がないぐらい思いっきり勉強すれば良いのです!
ただし、「苦手」と「勉強不足(あるいはやり方が悪い)」の区別が難しいこともありますので、指導者に判断してもらう必要はあると思います。
さて、川口君ですが、9月に塾をやめてくれました。
このタイミングは志望校対策に専念できるので大歓迎です。
いよいよスピードに磨きをかけることに特化できる体制が整いました。
秋の戦略は
- 基本的な問題集を毎日少しずつ解く
- 週に1回テスト形式の問題を解く
- 過去問を中等部から始める
という内容を宿題にし、授業では
- ややひねってあるような問題を分野の偏りがないように解いていく
- 「流水算」「水」「ニュートン算」等SFC頻出分野を少しだけ意識する
というものでした。
彼の良かったところはこの時期に大幅に得点力がアップしたことです。
できそうな問題はほぼ正解できるようになっていました。
もちろん、難問にはまだ歯が立たないところもありましたが、実質的にはこの時期に “勝負あり” というところまで持っていけたと思っています。
私はどの生徒がどの時期にどの問題を正解したかといったことをほとんど記憶しています。
そうすると今受け持っている受験生と過去に受け持った受験生の学力の比較ができます。
過去の受験生は結果が出ていますからそれを基に今の受験生の合否の予想ができます。
この予想は第一志望に関しては模試の判定よりも精度が高いという自信を持っています。
そして最大のメリットは試験の前日まで、判定を続けることができることだと思っています。
大手塾の模試は12月で終わってしまうことが多いですが、実はそこから伸びる受験生がほとんどなのです。
細かく学力が足りているかどうかのチェックができれば、それによって最適な内容の学習をすることができます。
川口君は早い段階で軌道に乗ったと判断したので、最後まで追い込むようなことはしませんでした。12月、1月も淡々といつものメニューをこなしました。
受験は4教科の勝負なので、バランスが大切です。算数は一度合格ラインを超える実力を身につけてしまえば、調子の維持さえ気をつけておけば急に下がるようなことはありません。
そこで、他教科を頑張ってもらえるように、算数はあまり負担がからないよう調整しました。
その判断が良かったのか、結果は両校とも合格でした。
今回のケースは指導を春から始められたことと、秋に塾をやめてくれたので、志望校対策に専念できたことが大きかったと思います。
比較的早い段階で学力を伸ばしてくれたので、調子を維持して極力失敗がないような仕上げを目指し、うまくいったケースだったと思います。
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今週の1題流水算
難易度★★★★☆
名門君はあるとき、親戚のおじさんのところに遊びに行きました。
おじさんの家のそばには大きな川があり、そこでおじさんの運転するボートに乗せてもらうことになりました。
下流のA地点から上流のB地点まで上り、すぐに戻ってくるという予定をたてました。
A地点を出発してしばらくした時、名門君はA地点に戻らなければならなくなりました。
そこで、B地点の2070m手前のC地点でUターンし、A地点に向かいました。
その時少しゆれたので、名門君は持っていた桃を川に落としてしまいました。
桃はそのままゆっくりと流れ、しばらくすると見えなくなりました。
A地点に着くと名門君はすぐに用事を済ませ、A地点に到着してから7分後にあらためてB地点に向けて出発しました。
ほどなくすると、上流から流れてくる落とした桃とすれ違いました。
桃を落としてからすれ違うまでの時間はちょうど30分でした。
ボートは無事にB地点に着きましたが、それは最初の予定より35分遅れでした。
おじさんはB地点で8分45秒休憩してからA地点に向けて出発しました。
ボートがA地点に戻ったとき、落とした桃もちょうどA地点まで流されてきたので、名門君は桃を拾うことができました。
流れの速さ、ボートの静水時の速さは常に一定で、Uターンには時間がかからなかったものとして以下の問に答えてください。
(1) 上りの速さと流れの速さの比を求めてください。
(2) AB間の距離を求めてください。
解答が表示されます